上方講談には

上方という言葉は、大阪と京都周辺を指す言葉である。上方落語が森乃福郎系の京都落語と大半を占める大阪落語の総称である。それと同様上方講談も本来京都講談と大阪講談の総称である。京都の神道講釈の系統を引く玉田玉照が昭和12年頃他界したことを以て芸能史の上からは京都講談は絶滅。よって上方講談という言葉は間違いである。さらに大阪で唯一残っている旭堂一門も東京の田辺派の分派に過ぎない。現在四代目旭堂南陵は明治期の大阪の講談速記本を元に大阪弁を生かした語り口で、大阪独自の演目の復活に力を注いでいる。それ故、四代目南陵は正しい大阪講談の呼称を用いている。

旭堂派は東京の田辺派の分派であり、初代南陵は駿河出身の旅まわりの講釈師であった。明治20年頃に三ッ寺筋に居を構え、明治44年59歳で没した。義士伝、次郎長伝と言った東京ネタを演じた

二代目南陵は大阪天満に生まれ、18歳の時、東京の講釈師三代目正流斎南窓の弟子となる。その翌年初代南陵の弟子となる。明治30年に修行のため上京三代目神田伯龍の弟子となった。
明治33年に帰阪、旭堂南陵となり、南陵の養子となり、明治42年に二代目南陵となった。
師南陵は一道となった。生まれは大阪だが、芸の系譜上は完全に東京の講談である。「太閤記」「難波戦記」「水戸黄門漫遊記」も二代目南陵の工夫はあるが、ベースは東京の演目の焼き直しである。研究者も東京と比較せず「上方講談では」という表現を使っているのが目立つ。

三代目南陵は、二代目の実子であるが芸的には二代目の南陵を踏襲。大阪に東京から居ついた講釈師として石川一口、神田伯龍達がいる大阪講談の系譜として玉田派、玉龍亭派、松月堂派、三省社派、笹井派があり、京都には尾崎派、山崎派、氏原派、吉田派があった。いずれも姿を消した。詳細は四代目南陵の博士論文「続々明治期大阪の演芸速記本基礎研究」(たる出版)に詳しい。

現在の四代目旭堂南陵は、収集した明治期の大阪の講談本から神道講釈の復活など、往年の大阪講談の姿をとり戻そうと努めている。セリフも大阪弁に改める等、再現への努力を続けている。

四代目南陵は、上方講談とせず大阪講談としているのは、京都講談の系譜が絶滅している以上、その言葉の意味が存在しないという考えからである。
現在、上方講談と称している講談師達は芸の入門は四代目南陵に端を発している。そのことは『伝統話芸・講談のすべて』(阿部主計 雄山閣)に詳しいが、その記事を掲げておく。

旭堂 南左衛門・なんざえもん(西野安彦)

昭和29年兵庫県三田市生まれ。大学商経学部卒。昭和51年旭堂南右(現小南陵)の「講談道場」に参加。同年三代目南陵に入門、南学と名乗る。昭和62年南左衛門と改名、真打。

旭堂 南鱗・なんりん(今西久幸)

昭和25年大阪市生まれ。商業学校卒。昭和50年旭堂南右(現小南陵)の「講談道場」に参加。昭和51年南陵に入門、南幸という芸名を南光と改める。昭和63年南鱗と改名、真打。
[得意演題] 紀文宝の入船 現代名士叢話 大坂軍記

度々東京へ出張して高座をつとめた経験も役立って、生まれつきの明るさに、東京風の軽快な口調と描法を、大阪流の叙述に取り入れたさわやかな芸風である。さらに、独自の演題を求めて魅力を強めれば、全国的な人気者となろう。

旭堂 南北・なんぼく(酒松伸男)

昭和30年広島市生まれ。商業高校卒。昭和54年漫談修行中、旭堂南陵の「講談道場」に参加。昭和55年三代目南陵に入門、南北と名乗る。平成三年真打。

旭堂 南海・なんかい(内海浩明)

昭和39年兵庫県加古川市生まれ。大学国文科卒。昭和62年在学中旭堂南陵の「講談道場」に参加、珍しく上方風の叙述を離れて、東京流の立体的話術で、愛嬌もあり大音。

四代目 南陵の演目

若い人達に人気の「安倍晴明伝」「菅原道真公一代記」等神道講釈の
流れを汲むネタもあり、中央公論社の「平成講釈安倍晴明伝」(夢枕獏作)
は、小南陵の提供したネタが元となっています。
他に「大江山実記」「吉備真備」等も有ります。

平成16年のNHK大河ドラマ「新撰組」を扱った演目、17年度の「義経」関連の演目共、多数あります。又、弁慶の出身地は紀伊田辺との説も有り、平成16年、世界遺産に認定されました、高野山(空海の物語)や熊野古道、吉野に関連した物語(弘法大師・小栗判官・役の小角他)等、豊富にございます。

人権ネタとして水平社結成80周年パーティ(部落解放同盟主催)で披露
した、「水平社結成物語」をはじめ、いじめ問題を扱った「越之海勇蔵」
セクハラ問題を扱った「真柄のお秀」。人の偏見の恐ろしさを扱った
「柳田格之進」又、男女共同参画社会としての「与謝野晶子物語」他いろいろございます。

地元にゆかりの「英雄」「名人」「偉人」「有名人」の人物伝から「社長さん一代記」といった「創作講談」も好評です。
「玉藻前」や「稲生物怪録、妖怪退治」(八百八たぬき)等の妖怪物から夏の夜の怪談物、又、「明治開化物語」「探偵講談」等、幅広いジャンルを持っていますので、およそリクエストに応えられない演目はございません。